ドタブカ
残ったのはごく少量の人骨 イスラエルの港町でダイバーを群れになって食い殺したのは、人を襲わないとされていた巨大なサメ(2025年11月2日)

2025年4月、イスラエルの港町、ハデラの沖合で泳ぎながら動画撮影をしていた40代の男性が、人間を攻撃しないとされてきた種のサメに襲われて死亡した。

目撃証言によると、男性は「助けて、噛まれている」ともがき叫んでいた。次第に水面が赤く染まり、群れになったサメのヒレが、水面に浮かび上がるのが見えたという。男性はそのまま海中へ引きずり込まれてしまった。

英紙「インディペンデント」は、学術誌「エソロジー」に掲載された最新の調査結果を引用し、事件を起こしたこのサメが「ドタブカ」と呼ばれる種だったことを報じている。ドタブカはメジロザメの仲間で、体長は3メートルにも及ぶ威圧的な姿をしているが、本来は臆病な気質で人間を警戒する生き物だ。これまでに人間を殺した記録は残されていない。

それなのに、ドタブカたちは群れになって男性を食べてしまった。「海上での捜索でごく少量の人骨が発見され、男性の身元が確認できたが、被害者は数匹のサメに食べられたという結論に至った」と研究者らは記している。

本来なら人間を襲撃しないサメが、突然牙を剥いたのはなぜなのか。原因は複合的なようだ。

ハデラ沖にはまず、近隣の淡水化施設から温水が排出されていて、これにサメの大群が寄ってくる。そうして集まってきたサメたちに、残念ながら餌付けをする人間がいるそうだ。そのうえ、地域で投棄された大量の食品廃棄物も、海に流れ込んでいる。結果的に、食べ物を求める何十匹ものサメが留まるようになっている。

「観光客を乗せる地元の船も、サメを近距離に留めておくために魚の残骸をこの海域に投げ込んでいる。これらの要因が相まって、サメは人間を食物と関連付け、『物乞い』と呼ばれる行動パターンを身につけたと科学者らは説明している」とインディペンデントは書く。ダイバーに向かって泳ぎ、擦り寄り、餌をもらおうとするサメたちの様子は、これまでにも映像に記録されていた。

英紙「デイリー・メール」によれば、人間の干渉による距離感の変化に加え、男性がGoProを持っていたことも襲われる一因となったようだ。

ビデオカメラは「微弱な電磁信号を発して」おり、サメがこれを「漁によって傷ついた魚など」と勘違いすることがあるという。GoProを持っていた男性は襲われ、大量に出血し、多くのサメを引き寄せてしまった。サメが噛みつくときに鳴らす音も、海域にいた大勢のサメを一気に呼び寄せた可能性がある。

人を襲うといわれているサメの種類は500種いる中で、たった6種類です。

まずは『ホオジロザメ』『イタチザメ』『オオメジロザメ』の3種類で、この3種類で人への襲撃事件のほとんどの襲撃犯と言っても過言ではありません。

次に『アオザメ』『ヨゴレ』『シュモクザメ』の3種類です。

『ヨゴレ』は、第二次世界大戦のインディアナポリス号沈没事件が有名ですね。極秘任務で、第二次世界大戦中の1945最新の大量破壊兵器である原子爆弾の部品および濃縮ウランを、米国からマリアナ諸島のテニアン島まで輸送しておりましたが、1945年ねン7月30日のちょうど真夜中を過ぎたころ、日本海軍の橋本以行が艦長を務める伊号第五十八潜水艦が発射した6発の魚雷のうち2発が、インディアナポリス号を直撃します。

沈没時にインディアナポリス号から救難信号は送られていました(沈没したのは極秘任務の完了後です)が、救難信号は「罠の可能性が疑われた」などの理由で正しく対応されず、船による捜索などは行われませんでした。

船が沈む音や生存者がもがく水音が最初の刺激となり、やがて傷ついた船員から流れる血などを頼りに、外洋を泳ぎ回るサメたちが集まって来ました。

初日の夕暮れまでにサメの数は100尾を超え、生存者たちを囲むように泳ぎながらその場に留まるようになりました。

やがてサメたちは海に浮かぶ乗組員の死体を貪るようになり、ひとしきり死体を食べたサメたちは、やがて生存者も襲い始め、傷を負っている者や出血している者を中心に、一人、また一人と犠牲になっていきました。

1945年8月2日に発見されて、当初乗船していた1196人のうち、300人ほどが生存者として救助されて8月5日に終わりを迎えました。

話を元に戻しますと、今回、襲撃したサメは『ドタブカ』という人を襲わないと言われているサメであったのに関わらずに襲撃されたのです。

『ドタブカ』は、全世界の温帯〜熱帯海域に分布し、長距離回遊を行います。メジロザメ属では最大種の1つで、最大で全長4.0 m、体重347 kgに達するそうです。水族館などで見かける種で、結構大きいですし、「あぁ、このサメか?」と思うでしょう。

成体は頂点捕食者であり、食性は非常に多様であり、人に危害を加える可能性があるが、事例は少ないとあり、ゼロではなさそうです。

2025年4月の話ですので、「通常は人間に危害を加えないサメが、摂食競争の高まりによって突発的に人間を襲った事例を科学的に検討する研究」として2025年8月16日付の『Ethology』誌に掲載されています。

フランスのPSL研究大学(PSL Research University)は、この事故の経緯を目撃証言と公開映像の分析から丁寧に再構成し、なぜ“無害”とみなされてきたサメが人間を襲うに至ったのかを説明しました。

要旨(ABSTRACT)

2025年、東地中海沿岸のハデラで男性観光客が死亡したサメによる事故は、通常人間に外傷を与えるとは考えられていないドスキ―シャーク(Carcharhinus obscurus)複数個体によって引き起こされた。

この地域では人工的な餌付けが行われており、サメが人間に慣れ、物乞いのような行動を示すようになっていた。その結果、ある大胆なサメがシュノーケリング中の男性が持っていたカメラに対して反射的・不器用な咬みつきを行い、意図せず彼を負傷させた可能性がある。

その音や匂いの刺激が**フィーディング・フレンジー(狂乱的な摂食行動)**を引き起こし、複数のサメが捕食的な咬みつきに加わったと考えられる。

この事例では、個体間の極端な競争が、人間が本来持つ「非捕食対象」という性質を上回った可能性がある。

🌍 エコツーリズムとサメとの接触

サメ観察やサメとの遊泳は、複数の国にとって経済的に重要であり、世界的に増加している(Séguigneら, 2023)。

そのため、人間とサメの接触頻度が高まることで咬傷事故の可能性も増加し(Ferrettiら, 2015)、それが一般市民からの否定的な反応を招き、**ブルーエコノミー(海洋経済)**に悪影響を及ぼす可能性がある(Brenaら, 2015)。

サメによるリスクを正しく理解することは、海辺の安全基準を向上させる上で重要な課題であり、各事故の状況を綿密に分析することが不可欠である。

🧠 サメの「攻撃」ではなく「咬傷」

サメによる人間への「攻撃」は、「咬傷(bite)」と呼ぶべきであり(Neff & Hueter, 2013)、その動機は多様である。

本研究では、以下のような動機を区別することが重要である:

捕食的咬傷:人間を餌として積極的に捕食しようとする行動
その他の動機:
縄張り意識・優位性の主張
資源へのアクセスを巡る競争
自己防衛・報復
反射的・不器用な咬みつき

捕食的咬傷は大きな組織損失を伴い、致命傷となることが多いが、それ以外の動機による咬傷は表面的な傷にとどまり、死亡例は稀である(Cluaら, 2023)。

また、新しい獲物候補を試す探索的動機(Clua & Meyer, 2023)は、通常は軽度だが、捕食行動の前兆となる可能性もある。

🦈 人間を獲物とみなすサメ種は限られている

人間を獲物と見なすサメ種は非常に少なく、以下の種が該当する:

・ラムニッド科のホホジロザメ(Carcharodon carcharias)、マコ(Isurus spp.)
・オオメジロザメ科のイタチザメ(Galeocerdo cuvier)
・メジロザメ科のオオメジロザメ(Carcharhinus leucas)、ヨゴレ(C. longimanus)

一方、**ドスキーシャーク(C. obscurus)やサンドバーシャーク(C. plumbeus)**などは、体長が3.5mを超えることもあるが、19世紀から2024年までに人間の死亡例は報告されていない(GSAF 2025)。

🦈 フィーディング・フレンジー(狂乱的な摂食)の概念

「フィーディング・フレンジー(feeding frenzy)」という概念は動物界では一般的であり、肉食性のサメに関しては、ニューカレドニアでのクジラの死骸を囲むイタチザメの群れの文脈で次のように定義されている(Cluaら, 2013):

この定義は、現象における「競争」の概念を強調しているが、重要な要素である「引き金(trigger)」の存在を見落としている。
この「引き金」は、動物同士の攻撃的な行動を誘発し、外部要因と相まって自然な行動を大きく変化させる可能性がある。

たとえば、前述のイタチザメの群れでは、数日間にわたる観察の中で、複数回のフレンジーが数分間続き、新たな空腹のイタチザメが現れるたびに再発生した。新たな個体が死骸に飛びつくことで、他のサメが攻撃的に突進し、再び狂乱的な摂食が始まる。

この「フレンジーの引き金」概念は、Gilbert(1977)によっても裏付けられており、次のように述べられている:

「強力な誘引物があっても、飼育下のサメが摂食を始めるのは難しいことが多い。しかし、群れの中の1匹が餌に突進すると、他の個体もすぐに追随し、フィーディング・フレンジーが発生することがある」(p. 671)

2003年、ニューカレドニアでの水中映像撮影の際にもこの現象を経験した。

我々は水中に死んだ鹿の死骸を提示したが、周囲を泳ぐオオメジロザメ(bull sharks)はそれに触れようとしなかった。

この餌が彼らの通常の食性に合わないと考え、鹿の口に死んだ魚を挿入したところ、最初のサメが魚に咬みつき、それが引き金となって複数のサメがフレンジー状態に入り、数分で死骸を食い尽くした(EC, 未発表データ)。

🌊 東地中海沿岸の環境変化とサメの集積

20世紀末までに、東地中海沿岸には海水を冷却水として利用する発電所が複数設置された。
中でも**ハデラ(Hadera)とアシュケロン(Ashkelon)**が最大規模であり、大量の温排水を海に戻している。

ハデラ発電所(イスラエル・テルアビブの北50km)は、近隣の海水淡水化施設の排水場所としても利用されており、有機・無機粒子を含む塩水廃棄物が放出されている(Barashら, 2018)。

その正確なメカニズムは未解明だが、この地域の環境変化により、主にメスのドスキーシャークとオスのサンドバーシャークが冬季に60~80匹ほど集積する季節的な群れが形成されている。

この群れは、地中海では前例のない無規制の観察型観光を生み出し、経済的にも大きな影響を与えている(Shamirら, 2019)。

⚠️ 管理の欠如と人間との接触リスク

複数の研究は、経済発展・サメ保護・人間との敵対的接触リスクという相反する課題に対応した管理の必要性を強調している(Barashら, 2018; Shamirら, 2019; Bigalら, 2024)。

しかし、管理が行われていない現状では、サメへの無制限な人工餌付けが行われており、人間への警戒心が低下し、海洋利用者との至近距離での観察が可能になっている(Barashら, 2018)。

この地域ではスピアフィッシング(魚突き漁)も盛んであり、負傷した魚を巡ってサメと人間の間で競争が発生する可能性もある(Cluaら, 2024)。

📹 2025年4月21日の致命的事故

それにもかかわらず、これまでハデラでは重大な人間と野生動物の敵対的接触は報告されていなかった。しかし、2025年4月21日に、40歳の男性観光客が複数の目撃者の前でサメに襲われ死亡する事件が発生した。

目撃者は事件を撮影しており、翌日には海上でごく少量の遺体の一部が発見され、法医学的に身元が確認された。

このことから、被害者は複数のサメにより捕食されたと結論づけられた(DR 2025; TOI 2025a, b, c)。

📹 事故の状況とサメの種・個体数

インタビューによると、被害者の40歳男性はハデラ海岸から100m以上離れた場所でシュノーケリングをしており、GoProカメラを装備してサメの観察を行っていた。
目撃者は、彼が「助けて…咬まれてる!」と叫ぶ声を聞いた後、水面が赤く染まり、背びれと尾びれが水面に現れたのを目撃している(FOEJ 2025)。

🦈 サメの種について

画像の慎重な分析により、水面に現れたサメはドスキーシャーク(Carcharhinus obscurus)である可能性が高いと判断された。

その根拠は、同サイズの個体における背びれの形状と大きさがサンドバーシャークよりも小さいという特徴に基づいている(Compagno 1984)。

🦈 ハデラ事例における仮説のまとめ

このハデラの事例研究では、この異例の事故に関する情報と、人間に対するサメの行動に関する既存の知識を組み合わせることで、以下の仮説が導かれた:

この状況は、**異なる動機による連続的な咬傷(juxtaposition bites)**によって発生したと考えられる:
第1段階:食物を求める「物乞い行動」による反射的・不器用な咬傷(おそらく1個体)
第2段階:フィーディング・フレンジーによって引き起こされた複数の捕食的咬傷


本研究で正式に識別されたのは**2匹のドスキーシャーク(Carcharhinus obscurus)**のみだが、他の個体(サンドバーシャークを含む可能性あり)も集団捕食に加わっていた可能性は否定できない。
両種の行動特性が類似していること(Compagno, 1984)は、仮説のメカニズムに影響を与えない。

🧾 他のサメ種の関与可能性の排除

画像の質・量は限られているものの、以下の**他の仮説(外傷性のあるサメ種の関与)**は排除可能である:

ホホジロザメ(white shark)
マコ(mako shark)
イタチザメ(tiger shark)

これらの種は、ハデラ事例の映像に見られる特徴的な形態が確認されておらず、
ホホジロザメとマコは**外洋性(pelagic)**であり、海岸近くに出現する可能性は極めて低い。

イタチザメについては、**スエズ運河を通じたレセプス移動(Lessepsian migration)**の可能性が理論的にはある(Spanier & Zviely, 2022)。

実際、紅海では沿岸で人間を咬む事例が定期的に報告されている(Midwayら, 2019)。

しかし、この地域にイタチザメが存在するというデータはなく、本件への関与は否定される。




※最後に
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